逝く道と二人の影

9/9
前へ
/142ページ
次へ
「てことは、それを使ってこの世を覗いていたら『偶然』俺を見つけて一目惚れしちまったわけか?」 「まぁ、それが一番妥当だと思うです。幽妃さんは忙しい人ですし、なによりルール上、閻魔はこの世には行けないのです。だからあなたと直に会うってことはありえないのですよ?」 「なるほどな」 だったら俺が幽妃のことを知らないのも当然だ。閻魔の鏡とやらでどこまで覗かれていたのかは心配だが、淋子の語る彼女の人間像を信じてみるとするか。それにしてもだ。 「どこまで飛ぶつもりだ?もう家出てからけっこう経つぞ?」 「もうちょっと待ってくださいです。入り口まで後少しですから」 「入り口?」 「はいです。あの世とこの世は直接的には繋がってないんです。壁みたいなのがあるんですね?でも、隔ててる壁が薄い場所があるんで、そこをちょこっとわたしの呪いでいじってやれば、入り口が開けるんです」 「その入り口ってのは?」 「それはですね……」 ニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべる淋子。その時俺は一瞬だけ、彼女が本物の死神であることを自覚した。 「人間が怪談としてよく取り上げる場所……墓場です」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

286人が本棚に入れています
本棚に追加