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ガチャリ。
入口のドアが音を立てて開き、紙袋を持った一人の女性が入ってきた。俺は彼女を見て、息を飲んだ。彼女は想像以上の美人だった。
肩にかかる程度の黒髪に細い眉。フレームの細い黒縁の眼鏡の向こうの目には、強い意思を感じる。背はたぶん160あるかないか。黒いスーツとパンツといういで立ちで、いかにも仕事ができそうな雰囲気を漂わせている。
だが、彼女が持っているのは回転焼きの入った紙袋だった。ものの見事に、彼女の雰囲気と合ってない。
「シオー、回転焼き買ってきたよ。一緒に食べよ……う…………か?」
幽妃の目が司を捉え、向かいの淋子を捉え、そして俺を捉え、固まった。そんな幽妃に、シオをたたたっと駆け寄ると、むぎゅっと抱き着いた。やべえ。かわいい。
「ユウ、おかえり」
「おかえりなさいとただいまです、幽妃さん」
「お邪魔してるよ」
「どうも」
俺達はそれぞれ幽妃に声をかける。二度目を瞬き、そしてようやく状況を理解した幽妃は
「ただいま。はいこれ、黒あんだよ」
落ち着いた声でそう言って、シオに紙袋を渡すと、窓際に向かい、椅子に座った。
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