1ラブラブオーラははた迷惑

4/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
投げたのである。無造作に、ぽいっと。 自分よりも頭ひとつ分は背も高く、自分を鍛えることに余念の無い、マッチョ・松沢を投げ捨てたのである。 廊下に。 「いて~ッ! 楓っ!」 「京ちゃんをからかうな!」 「楓君・・・」 「京ちゃんは僕のなんだから、京ちゃんをいじめる奴は敵だ」 「お前ね・・・」 「まったくだよ」 「編集長・・・でしょ、ひどいでしょ。こいつ」 マッチョで大人のプライドを打ち砕かれた松沢の泣き言に、サイエンスマガジンから文芸書、ライトのベルにBLと、中規模ながらもジャンルは広いと、業界で定評のある講文堂出版でも、ウイングプレイヤーながら売り上げ実績はお墨付きを誇る「本当にあるあなたの恐怖体験」編集長・藤堂は肩をすくめながら首を振って見せた。 「松っちゃん、キミももう大人なんだから、いい加減学習しなさいよ。楓君の導火線の短さを」 お抱え作家の活動時間までの間隙をぬうように、しばしの憩いのひと時に編集部にたむろしていた幾人かの同僚は、松沢が二人に絡み始めたと同時にてきぱきとデスクを貴重品を抱えるなり、安全な位置に避難している。そして今もいささか過激などつき漫才を観覧しているのである。 諦観といった方が正しいかもしれない。。 なぜならこれは珍しい現象ではないのである。 「楓君もね、なるべく備品を壊さないでね。総務に言い訳するのにも限界があるからね」 「む~」 「すみませんでした。編集長」 「うん。楓クンの手綱、ちゃあんと握っといてね。京ちゃん」 「これからは気をつけような。楓君」 「うん。京ちゃんが言うんなら、頑張ってみる」 これで直るとは、藤堂は思っていない。 直るものならとっくにどつき漫才は見られなくなっているはずだからだ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!