2

1/17

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

2

「あ~これはいっぱいいるね」 手入れをされなくなって、どのくらいがたっているのだろう。規模としては、個人病院の少し大きなものといったところだろう。三階建ての白い外観には縦横無尽に蔦が絡み、かつては整枝されていたであろう植栽も鬱蒼と生い茂る。 住宅街の真ん中に取り残されたそれは、幽霊屋敷と呼ぶのに格好のロケーションである。 「いっぱいって、どのくらい?」  微かに、震える声で京一郎は問いかける。 正直・・・苦手である。 ホラー雑誌の記者などという仕事はしているが、元来京一郎はこういうのが苦手なのだ。 「ん~と、いっぱい」 「・・・いっぱいか」 「でも、雑魚。この人たちは大きいのがいなくなれば、いなくなっちゃうものだよ」 「大きいのも、いるんだね」 「・・・うん。纏まって、ひとつになってる」 「じゃあ、もう意識は無いんだね」 「そうだね。人の意識は無いかな」  こんなとき、楓の顔に表情は無い。いつもならば、豊かに感情を移す瞳でさえ、深く深く沈んで、まるで硝子玉のように見える。  綺麗だとは、思う。 けれど・・・。 自分とは違うものを見る楓が、自分の知らないところにいってしまうような気がして、怖い。 だから・・・。 京一郎は、手をつなぐ。 指を絡め、手のひらを合わせてつなぐ。 「京ちゃん」 「少しだけ、いいか?」  目元をわずかに染めて笑った。 「ず~っとでもいいよ」 「それじゃあ仕事にならないだろ」 「しないで帰る。ッてのは、だめ?」 「だめでしょ、ふつー」  つないだ手から、凍りかけた感情が柔らかに解けて、ふたりの中で混ざり合う。 「きやーっ!」  黄色い悲鳴が、建物の中から響く。 二人は顔を見合わせる。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加