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「あ~これはいっぱいいるね」
手入れをされなくなって、どのくらいがたっているのだろう。規模としては、個人病院の少し大きなものといったところだろう。三階建ての白い外観には縦横無尽に蔦が絡み、かつては整枝されていたであろう植栽も鬱蒼と生い茂る。
住宅街の真ん中に取り残されたそれは、幽霊屋敷と呼ぶのに格好のロケーションである。
「いっぱいって、どのくらい?」
微かに、震える声で京一郎は問いかける。
正直・・・苦手である。
ホラー雑誌の記者などという仕事はしているが、元来京一郎はこういうのが苦手なのだ。
「ん~と、いっぱい」
「・・・いっぱいか」
「でも、雑魚。この人たちは大きいのがいなくなれば、いなくなっちゃうものだよ」
「大きいのも、いるんだね」
「・・・うん。纏まって、ひとつになってる」
「じゃあ、もう意識は無いんだね」
「そうだね。人の意識は無いかな」
こんなとき、楓の顔に表情は無い。いつもならば、豊かに感情を移す瞳でさえ、深く深く沈んで、まるで硝子玉のように見える。
綺麗だとは、思う。
けれど・・・。
自分とは違うものを見る楓が、自分の知らないところにいってしまうような気がして、怖い。
だから・・・。
京一郎は、手をつなぐ。
指を絡め、手のひらを合わせてつなぐ。
「京ちゃん」
「少しだけ、いいか?」
目元をわずかに染めて笑った。
「ず~っとでもいいよ」
「それじゃあ仕事にならないだろ」
「しないで帰る。ッてのは、だめ?」
「だめでしょ、ふつー」
つないだ手から、凍りかけた感情が柔らかに解けて、ふたりの中で混ざり合う。
「きやーっ!」
黄色い悲鳴が、建物の中から響く。
二人は顔を見合わせる。
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