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「肝試しでしょ」
駆け出しながら、切迫感の無い悲鳴と、笑い声に耳を済ませる。
「京ちゃん、聞こえる?」
はしゃぐ声に混ざって聞こえるのは、怨嗟の呻き。
地の底から響く、この建物に満ちた空間そのものを震わすようなうめき声。
「いいや、でも・・・感じるよ。肌がびりびりしやがる。こりゃあ、まずいな」
「うん、すごく怒ってる」
「そりゃそうだ」
ここに棲む霊にしてみれば、眠りかけていたものを無理やり起こされたようなものだ。
「小さいのが、集まろうとしてる。京ちゃん!」
楓の視線をトレースして、利き手で結んだ刀印に気を込めて打ち放つ。
「砕波(さいは)!」
放たれた気の塊は白い光の玉となり、集合体になりかけていた霊たちに触れたとたんにはじけて、それを微塵に吹き飛ばす。
「すご・・・い」
京一郎には、楓の言う破邪に力が宿っている。
本人もそれを十分に自覚してはいるし、これで目が利けば霊能者の仲間入りで、眉唾霊能者に編集長が頭を痛めることもない。
「楓! 次は」
「ここはもういいよ。大きいのは、下にいる」
「避難誘導が先だ、楓、見えるか?」
「この上。三人いる」
「わかった。行こう」
無残に壊された、施設。
壁いっぱいに書かれた落書き。
興味本位で訪れて入り込むこと自体が、違法行為だとまったく認識していないのだろう。
「京ちゃん、上!」
「砕波!」
白い光に千切れ飛ぶ、人の姿を残したもの。
青白い顔をした、かわいらしいテディベアのプリントパジャマの子供。
楓は、きつく唇を噛んだ。
けれども、取り乱すことも、それを告げることもしない。
硝子の瞳で前を見据えて冷静に目標を告げていく。
こんなのは、見慣れている。
何度も何度も心の中で繰り返しながら。
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