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「…か…カレン……」
「……なんだ」
スティーブは右手で傷付いた脇腹を乗せる様に押さえながらカレンに話し始めた。
彼女は彼のかすれた声を聞き逃さない様に耳を傾ける…
「…長かったな……ここまで辿り着くのは…」
「…あぁ」
「…あの時は…まさかこんな事になるとは思ってなかった…
ただ…何時も通りに…俺達は…」
スティーブはどこに焦点が合ってるか分からない瞳で思い出す様にそう呟いた。
既に顔の血色は青白く、肌の温かさが消え初めている状態だ…
カレンはそんな彼を見て思わず目に涙が溢れ出してしまう。
顔を下に俯かせて堪えようとするが、止まる筈も無くぽたぽたと下に零れ落ちて彼の頬を濡らした…
「よせ……もぅ…何も言うな……言わないで…」
鳴咽混じりにそう言うが最後の所ははっきりと喋れず、彼の身体をだき抱えて無意味な願いを頭の中で繰り返し叫ぶ事しか出来なかった…
「カレン……聞いてくれ…」
「……」
「俺は…ただしくじっただけだ……それだけの…話だ。
だから…悲しむ必要なんか…無い…」
「!?…な、何言ってるんだ!そんな理由で済む事じゃ筈ないだろ!」
突然の彼の話にカレンは驚きながらそう叫んだ。
「…お前には……これ以上…辛い思いを…して欲しくないんだ……」
「……」
「だから……ぐっ!」
「す、スティーブ!」
彼は話を続けようとしたが咳をして途中で止まってしまった…
咳と共に大量の血液が溢れ出る…
「ッハァ……くそ…もう…意識が…保ってら…れない…」
「…駄目だ…逝くな。
逝かないでくれ…」
「か、カレン……お…お前は…自由に…い……き…て………」
「…スティーブ?……スティーブ!!」
彼女は彼を揺すって起こそうとするが反応はなく、既に事切れていた。
開いたままの瞳が彼女を見つめたまま…
「…う……うあああああああああああ!!!」
カレンは彼を腕に抱えたまま、空を仰ぐ様に顔を上げて大きくそう叫んだ。
鳥のさえずりしか聞こえないこの森の中で彼女の鳴咽はただ虚しく響き渡り、俺やエルザの心に深く突き刺さった…
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