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「知ってるからだ。お前を藤堂美咲(トウドウ ミサキ)を」
「どうして……」
名前は教室で楓ちゃん達が呼んでたけど、苗字までは名乗ってないはずなのに。
どうして私の名前を知っているの?
さっきから疑問ばかり出て来て、私の頭の中はグチャグチャにこんがらがっていた。
すると不良は頭をガシガシと掻いて、溜息をついた。
「あー、やっぱ俺の事を忘れてるし……。俺の名前は黒崎恭弥(クロサキ キョウヤ)。3年だ」
「黒崎…」
知らない名前だ。
全然記憶に無い。
私の困惑した表情を見て取り、黒崎先輩は付け加えた。
「覚えてないのはしょうがねえよ。俺はお前に名乗らなかったし、あれから随分経ってるから見た目からじゃ思い出せないだろう。まあ……正直あの時の俺の事は思い出してほしくないから、覚えていなくてホッとしたけど」
黒崎先輩の困った様に笑った顔を見て、私はさっきのモヤモヤとは違うギュウッと胸が締め付けられる痛みを感じた。
考えるより先に言葉が出ていた。
「ごめんなさい」
「何で謝るの?」
「覚えてないから」
「これから俺のことを知ってくれればいいよ」
黒崎先輩はまた困った顔で笑うと、缶のプルタブ開けてコーヒを飲み始めた。
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