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その青年の呟いた言葉に、マスターは焦ったような口振りで返事を返した。
「お客さんが只者じゃないのは分かるが徒歩は止めた方がいい。ラグネルナは一本道だけしか通路が無くてね、近頃その道にクリーチャーが多々出没するからね。オマケに今は関所が通れないとか聞いているからね」
「ほう……」
クリーチャーとは人と敵対する生物の総称であり、種類は数万を軽く越える程多種に及び、水中で生きれる生物や、四足歩行の生物だったりと種類は非常に多い。
なので基本的に馬車にはクリーチャーが苦手とする匂いを放つ特殊な魔除けの香水を振り撒いており、更に護衛に政府の者が付くので、大抵の一般人の通行は馬車になる。
しかし青年は興味深く話を聞いた後、残りの酒を一気に飲み干し、立ち上がった。
「マスター、この酒をもう一本貰えるか? 代金は置いておく」
青年はそう言うと、酒を受け取り、ゆっくりと酒場を後にしようとしたが、最後に立ち止まり、マスターの方を振り向いた。
「どんなクリーチャーかは知らないが……何、私も腕には自信があるから心配は無用だ。ま、関所の方の噂が本当ならアウトかも知れないが」
青年はそう言い残して、酒場を出て行き、そのまま村から旅立って行った。
腕に自信があるとは言っていたが、何度も彼の接客をしているマスターは、彼の普通の客との違いにはすぐに気付いていた。
──あの青年には右腕が無いことに。
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