1‐3章──王都ラグネルナ

19/26
前へ
/288ページ
次へ
「加減はしたが、しばらくは目が覚めないだろうな……で、どうする少佐? このままセレナを押さえ付けて私を見逃すか?」 「…………」  アノンは一瞬悩んだが、その結果、セレナを解放して離れ、セレナもすぐに距離を取った。  アノンの正義は極端なまでの勧善懲悪主義であり、多少不利になろうとも、自分の正義を貫く事には変わりは無く、ある意味では最も政府の軍人に近いかも知れない。 「物分かりが良くて助かるな少佐。その物分かりで私達を見逃して貰えるとありがたいのだが……?」 「私がそう返事をするとでも思っているのか?」 「無理無理。何かもう今すぐ襲い掛かって来そうな雰囲気だからな」  既に腹を空かせた野獣の如く、殺気を剥き出しにしているアノンに、ヴェリウスは軽くため息を付いた。  そんな中、セレナはすぐにヴェリウスに近付き、アノンに聞こえないように小声で話し出した。 「ヴェリウス!? アイツは政府の軍人よ!? アンタが少しは強いのは分かったけど、万が一勝てても更にややこしい事になるし……それに……」  セレナの台詞は刺々しいものの、それはヴェリウスを心配しているからである。  セレナは一旦話を区切り、再び小声で話し出した。 「……アイツ、アタシを圧倒してたけど、まだ何か隠してるようだったから……」  やはり一瞬で押し付けられたからか、不安そうな曇った表情をしていたセレナの頭の上に大きく、ガッチリとした手が優しくのし掛かった。 「優しいな……心配してくれているのか? だが、安心したまえ。私は別に殺し屋じゃ無いんだ。殺すつもりは無いさ。それに、私も結構強いのでな」  ヴェリウスは優しくそう言って、セレナの前に立った。  ヴェリウスの背中は、大きく、それでいて、安心感が持てるようだった。
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

228人が本棚に入れています
本棚に追加