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「加減はしたが、しばらくは目が覚めないだろうな……で、どうする少佐? このままセレナを押さえ付けて私を見逃すか?」
「…………」
アノンは一瞬悩んだが、その結果、セレナを解放して離れ、セレナもすぐに距離を取った。
アノンの正義は極端なまでの勧善懲悪主義であり、多少不利になろうとも、自分の正義を貫く事には変わりは無く、ある意味では最も政府の軍人に近いかも知れない。
「物分かりが良くて助かるな少佐。その物分かりで私達を見逃して貰えるとありがたいのだが……?」
「私がそう返事をするとでも思っているのか?」
「無理無理。何かもう今すぐ襲い掛かって来そうな雰囲気だからな」
既に腹を空かせた野獣の如く、殺気を剥き出しにしているアノンに、ヴェリウスは軽くため息を付いた。
そんな中、セレナはすぐにヴェリウスに近付き、アノンに聞こえないように小声で話し出した。
「ヴェリウス!? アイツは政府の軍人よ!? アンタが少しは強いのは分かったけど、万が一勝てても更にややこしい事になるし……それに……」
セレナの台詞は刺々しいものの、それはヴェリウスを心配しているからである。
セレナは一旦話を区切り、再び小声で話し出した。
「……アイツ、アタシを圧倒してたけど、まだ何か隠してるようだったから……」
やはり一瞬で押し付けられたからか、不安そうな曇った表情をしていたセレナの頭の上に大きく、ガッチリとした手が優しくのし掛かった。
「優しいな……心配してくれているのか? だが、安心したまえ。私は別に殺し屋じゃ無いんだ。殺すつもりは無いさ。それに、私も結構強いのでな」
ヴェリウスは優しくそう言って、セレナの前に立った。
ヴェリウスの背中は、大きく、それでいて、安心感が持てるようだった。
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