伝説の作り方

8/10
前へ
/158ページ
次へ
  「本当……だ。通じてる。響くん、耳聴こえるように、なったんだね」 梓の腕が僕の腰に回され、ぎゅっと力が入るのを感じた。 「何で?どうやって、聴こえるようになったの?」 梓の声は、微かに震えていた。 それが喜びから来る震えだと分かるから、僕にはその問いかけが嬉しかった。 「えっと……気合い……かな」 「ふふっ、そっか。気合いがあれば何でもできちゃうんやね。さっすが響くん」 「うん。詳しいことはまた後で話すよ。今はとりあえず、校舎に戻ろうか。このままじゃ風邪引くからね」 梓の濡れた髪を優しく撫でると、梓はゆっくり体を離し、顔を上げた。 「う~ん、名残惜しいけど、仕方ないね。今日の放送さぼっちゃったし。時間過ぎてるけど、放送室行った方がいいかな?」 「それが良いよ。僕もちゃんと聴いてるからさ」 僕がそう言うと、梓はニコッと、超素敵笑顔を僕にくれた。 僕も笑顔で返し、そうして二人で笑い合いながら、僕らは雨の中を歩き続けた。 結局、僕はこの日梓に告白をしなかった。 理由はいくつかあるけど、一番大きいのは、今日の天気だ。 梓に告白するなら、やっぱり清々しい晴れた日がいい。 青空の下、大声で梓への愛を叫びたい。 この雨が上がり、分厚い雲が去り行くまでの間は、梓の声をじっくり堪能することにしよう。 今まで聞けなかった分も、しっかり脳裏に焼きつけるんだ。 それと……もう一つ、やることがある。 「ねぇ、梓」 「ん、何~?」 「今日、小西先輩に会いに行ってもいいかな?」 「え?いいけど、何しに?」 飛びっきりの笑顔で、僕は答えた。 「『いつかあんたを越えてやる』って、言いに行くのさ」 雨はすぐ、止む気がした。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5388人が本棚に入れています
本棚に追加