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そんな密かな言葉のキャッチボールを楽しむ僕に、梓は更なる豪速球を投げつけた。
『じゃあ、ウチのこと好き?』
その質問に答えることは簡単だ。
だが、この僕らの青春のやりとりを邪魔しようとする気配を、僕は感じとった。
「え~、この『more than』なんだが……中学でやった内容なんてどうせお前ら覚えてないだろ?おさらいだ。外山、何でもいいから適当に『more than』使って英文を作ってくれ」
無茶振りにも程がある話だけど、これも教師からの絶対的信頼を寄せる優等生の宿命だ。
「中学レベルでいいぞー。外山なら楽勝だろ」
その瞬間、僕は思いついた。
先生の無茶振りに応え、梓の質問にも答えられる英文を。
折角こんなに良い天気なんだし……うん、そうだ。
伝説を作ろう。
「はい」
僕は先生に返事をし、教科書を置き、梓にウインクしてから、立ち上がった。
「I love AZUSA more than
anyone in the world.」
その瞬間、教室は沈黙に包まれた。
克己だけが、ぷっと吹き出して笑っている。
「ほう?じゃあ外山、訳してもらおうか」
端山学園の先生は、とても理解のある人ばかりだ。
生徒達のやんちゃぶりを笑って見守る、そんな素晴らしい学園。
「はい」
その心意気に報いる為、僕は窓を開けて、息を思いっきり吸った。
「1年7組!小西梓さん!!僕はぁ!この世界の誰よりもぉ!あなたのことを──」
遠慮は要らない。
迷いはない。
恥ずかしさの欠片も感じない。
だってこれは、みんなに──誰より梓に聞いてもらいたい、大切な気持ちだから。
だから、この青空の下、全校生徒に届く声で叫んでやる。
これが、僕なりの伝説の作り方だ。
「──あなたのことを、愛しています!!僕と、付き合ってください!!」
小西梓と、外山響。
二人の伝説は、この日から始まった。
fin.
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