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数秒間沈黙が流れた後、
「え、ど……どーして! あんなに激しく愛してくれたのに!?」
「僕はずっとなーにゃんさんの正体はあそこに隠れてる、学校でビラを配ってたお姉さんだと思って相手をしてきたんだ」
ユウキくんは俺たちが隠れている方向を顎で示した。
振り向いた奈緒に向かって、モモが「てへへへ……」と舌を出した。
「わわっ!! モモさまっ!! 尾奈くんまで!」
奈緒は刺々しく俺たちを睨んだが、それよりもユウキくんの言葉がもっと気になったと見え、すぐにユウキくんを見据えて、責め立てるように言った。
「私とモモさま、ぜんぜんスタイル違うじゃないですかっ! 身長が違うし、脚のラインだって、ほらっ!」
スタイルに絶対的な自信を持っている奈緒にとって、モモと同一視されていたなんてことは驚天動地、計り知れないほど心外な言葉だったのだろう。
「う~ん、今見たら確かに全然違うな……。あの時はもっと大きく見えたんだけど……。あんな恥ずかしいビラを堂々と楽しそうに配ってたから、もっと大きくて立派に見えたんだろうな、たぶん」
人間的スケールの大きさ(恥辱の感受性の少なさも構成要素だ)が、直に向き合っている者に対しても、肉体までもを大きく錯覚させることがあるんだね。
ユウキくんは喋りながらも、この場を去るきっかけを見計らっているようで、詰め寄ろうとする奈緒と常に一定の距離を保ったまま、視線をキョロキョロと左右に振っている。
「わ……わたしの……どこが不満なんですかっ?」
悲嘆より怒りが勝っている口調だ。
「なーにゃんさん、なんていうか……言っちゃ悪いけど、胸はおっきいんだけど、顔が……」
そして、ちょっと声をひそめて、
「……ブサイクだし……」
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