572人が本棚に入れています
本棚に追加
「ぶ、ぶ、ぶ、ぶぶぶぶさいくぅ!?!?」
おそらく生まれて初めて投げかけられたであろう不可思議不可解な響きに、奈緒の魂は瞬時に時空を越えて、転げまわって泥だらけになりながら悲痛に叫びまくった。
取り残された肉体はへなへなと脱力した。
告白前には、交際を断られる可能性に怯えて気弱になっていた奈緒ではあるが、それは、清楚そうだし美しすぎて畏れ多い!と言われて躊躇される可能性だけを想定していたのであり、まさかこんなとんでもないシナリオが存在する可能性があるなんて、微分子ほども想像していなかっただろう。
まぁ、人それぞれ趣味があるから。
万人が認める美なんてものは存在しないということだな。
それは世界の真理だ。
「奈緒はそんなにぶさいくじゃないと思うけどなー。ユウキくんみたいに、ものごとの本質がよくわかってる人が見ればあたしのほうが奈緒よりもちょっとかわいさが優ってるってことがわかるだけだよ」
モモが得意げに言った。
「うぅぅ……」
奈緒は恨めしそうにモモを睨んだ。
「モモさま……いや、クソモモ!!……わたしのユウキくんをよくも……」
と奈緒は怒っているが、モモの知ったことではない。
モモは心から奈緒の役に立とうと思って活動したわけであり、ユウキくんを横取りしようなどという不届きな邪念の類なんぞは一切なかったのは奈緒自身、よく知っている。
人にはそれぞれ好き嫌いがある、というだけのことだ。
だが、ここでモモがちょっとばかし得意そうな顔をしたりなんかしたから、ややこしいことになったのだ……。
わなわなと沸き起こる怒りをなんとか抑えている奈緒の肩越しに、ユウキくんが説明を始めた。
「僕は妥協の相手を探してネットを彷徨ってただけさ。僕が崇拝してるのは姉貴だけ。姉貴は世界一の女性だ……」
……ユウキ君の語りを要約すると――――彼は実の姉に実らぬ恋をしている。このままではいけないので、姉を超えることは困難だとしてもある程度妥協させてくれる女性を見つけて、いくらか正しい道に軌道修正してもらうためにネットやリアルを彷徨っているうちになーにゃんと出会い、「こんなにすごくヒワイな人なら僕を多少は夢中にさせてくれるかも!」と大いに期待したのだが、やはりダメだった。奈緒ごときでは妥協の相手にすらならない――――ということらしい。
最初のコメントを投稿しよう!