第1章

2/6
前へ
/51ページ
次へ
国の中枢都市から大分離れた草原にある高い岩山の上に、男が立っていた。 彼が見下ろす先には、緑の草原が広がっているはず――…であったが違った。 黒い。 一面真っ黒で、よく見るとうごめいている。 男は微かに眉を寄せると、無言で指を鳴らす。 その瞬間、一面真っ黒だった草原の中心に大きな氷の塊――… 否、巨大な氷で出来た薔薇の結晶が出現し、 その薔薇の結晶から伸びた何本もの蔓が強靭な棘で、うごめく黒いもの――…魔物を締め上げた。 彼が指を鳴らしてから一瞬の出来事だった。 「任務完了。戻るか」 その男――…否、その少年は金のラインと背中に銀の薔薇の描かれた純白のローブを翻し岩山から飛び降りる。 フードを目深に被っており、顔はわからない。 少年は右手を前に突き出した。 すると何かが軋む音がして、少年の右手には一輪の薔薇が現れた。 透き通った氷の薔薇が。 美しいその薔薇を地面に置くと少年は、転移、と言って姿を消した。 少年が去った草原には、巨大な氷の薔薇と赤く染まった蔓が残った。 恐ろしく、美しい光景。 パリンッ、と高く綺麗な音が響く。 少年が置いて行った一輪の氷の薔薇が急に砕けると、巨大な氷の薔薇も一瞬で砕けた。 粉々になった氷に太陽の光が乱反射し――… まるで消してしまった命へ、せめてもの償いの様に、祈りの輝きは美しく散っていた。 ---------------- --------- ---- .
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加