閃光と爆風

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保育園の玄関口にはエントランスがあるが、その鉄骨は折れ曲がり屋根だったプラスチックの板が地面に落ちている。 今朝、この道を、娘の小さな手を握りしめ、他愛の無い会話を交わしながら歩いたのに…。 今は、その影すらも窺い知ることは出来ない程に崩壊している。 ふと声がしない事に気付いた。 いつもならエントランスまで子供達の元気な声が聞こえてくるはずなのに…。 今は、私が踏み締める瓦礫の音しか聞こえて来ない。 誰も居ない…。 自動ドアが開け放たれたままになっていてそこかしこに子供達の靴が散乱している。 どうやら上履きのまま何処かに避難したようだ。 「すいません!!どなたかいらっしゃいませんかぁ~!!」 私はありったけの大声で園内に声をかけた。 耳を済ましても誰の声も聞こえて来ない。 やはり何処かに避難したのか…。 そう思いつつもスニーカーのまま園内に入って行く。 ホールへと続く廊下はガラスの破片と倒れたロッカーでなかなか先へ進めない。 ロッカーの上を慎重に渡り歩く。 ロッカーは屋根より滑り易かった。 ホールの手前に職員室がある。 開いたままのドアから覗くと、割れたガラスと外れたサッシ、本やノート等が散乱し、床や壁には血の跡が見られた。 思わず息を飲む。 ここへ来て始めて目の当たりにした血痕…。 今まで血を見て来ていないぶん恐ろしく、体が震え出す程だった。まさに驚愕するとはこの事だ。 声も出ない。 こんな中で、本当にうちの娘は無事なんだろうか… 一気に不安が押し寄せる。 教室は無事だろうか…。 まだ幼い娘は、教室で過ごすことが多かった。 もし、教室が無事なら、娘も無事でいる確率も高くなる!! そう思った私は職員室を後にして一目散にホールへ向かった。 ホール内は、割れたガラスと子供達のおもちゃが散乱していたが、血痕は見当たらない。どうやら教室での保育時間だったようだ。 ホールを入ってすぐ左に娘の教室がある。 ドアが開いたままになっている。 かけより中を覗くと、小さな椅子がいくつも投げ出され、棚の上の園児私物が床に散乱している。 血痕は見当たらない…。 その場にへなへなと力無く座り込んだ。 「良かった…。」 思わず出た、ため息にもにた言葉…。
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