-壱【恋】

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 僕は何だか嬉しくなって、もう一度、今度はちょっと触れるだけのキスをした。 「僕を立派な男になるように見守っててね」  そしていつかは、姫のことも、嬢のことも、ちゃんと守れる男になるから。  心の中でそう誓って、僕は笑った。  呆れたように、でもどこか楽しそうに、一錠が笑う。 「そばにおるよ、ご主人様」  こうして僕は、新たな一歩を踏み出したのだった。 「やだー、姫、あと一日、いや一週間、いや、やっぱり一年、こっちにいてよー!」  駄々をこねながら、偶像崇拝の腰にしがみつく僕。 「神様、俺何でもする、サンドバッグにだってなるから、まだうちにおってくださいよぉ」  泣きながら偶像崇拝の首に抱きつくエンドルフィン。  それを、冷めた目で見ている卯之助さんと、ケラケラ笑っている圭介さんと左京さん。 「先輩、モテモテですね」  からかうように仲介屋さんが言った。 「うーん……嬉しいけれど離れてほしいね……一生の別れじゃないんだから、我慢しなさい、二人とも」  そうは言われても、寂しいものは寂しい。  偶像崇拝は僕の初恋だ。だからこそ、一緒にいられることが嬉しかったし、楽しかった。  僕だってバカじゃないから、本当はわかっている。  叶わない恋だと言うことも、僕がまだまだ子供だと言うことも。  ただ、一番近づきたい人が遠くに行ってしまうことが、単純に嫌だったのだ。 「お前、本当に神様が好きなんだな」  夢遊病が呆れたように笑う。  この人とだって、もっと話してみたかった。  この世界で生きていきたいからこそ、偶像崇拝にだって夢遊病にだって、いろんなことを聞きたかった。  強い人はいくらだっている。だけど、単純な強さではない力を、この人たちは持っている気がする。  だから、知りたかった。  大切な人を守るために、この人たちのように強くなるには、どうすればいいのか。 「お姫さん」  モヤモヤとしながら偶像崇拝に抱きついたままの僕は、その声に視線だけを向けた。  一錠だ。  今日はもちろん、赤月唯としてそこに立っている。 「わざわざ見送りかい、毒華」
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