よ✋

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僕は市川から西船橋に向かうのに、各駅停車を利用していた。今日の占いでは、新たな出会いがあるかもとあったが、今僕は、幸せである。つくづく占いは当たるものだと思う。今、僕は、確実に座席に座るために(市川~西船橋間だって結構長いからな)1番端の車両に乗った。その車両には、ほとんどが女性で、みんな僕を見ていた。ちろちろと、はっきりとはしないが、僕は注目されているのだ。気にかかったのが、この車両に、男性の姿が全く見当たらないのだ。まぁ今日の運勢は、特に恋愛運がよかったから。もしかしたら、この中に、僕のフィアンセがいるのかも!とか考えていた。だいたい、25年間彼女がいなかったのは、この日の幸せのために、神様がやってくれたのだと思った。本八幡で、25、6くらいのOLの3人組が乗って来た。3人とも、僕を見て、目を見合わせた。僕には、カッコイイ人と乗り合わせて、ラッキーと考えているようにしか見えなかった。だいたい彼女らは、会社に男性を求めに来てるとしか思えないような、かわいい恰好をしている。向かいの女子高生なんて、僕を凝視している。そんなに見詰められたら、照れてしまう。 下総中山を過ぎて、おばあちゃんが乗って来た。もう空いてる席はない。僕はおばあちゃんに席を譲った。おばあちゃんは一瞬嬉しそうにしたが、その後僕を怪訝そうに見た。僕は「いえ、次で降りますので。」とおばあちゃんを安心させた。おばあちゃんは何か言いたそうだったが、恩義がましくするのも格好悪いので、さっとおばあちゃんの側を離れた。そして、後一駅、ドストエフスキーの難しい小説を、眉間にシワを寄せて読んでいた。「次は、西船橋。西船橋。」と放送が流れ、僕は本を閉じた。おばあちゃんと目があったが、僕はぺこりとお辞儀しただけで、姿勢を伸ばして車両を出た。階段を登っている最中も、人生で1番女の子に囲まれていた幸せの時間のせいで、口元が自然にほころぶ。今日はいい日だ。 階段を一人の男が、幸せそうに歩いている。先程この男が乗っていた電車は、もうすぐ発車する。男の出て来た車両には、ピンク色のシールが貼ってある。目を懲らすと、不幸な男の幸せそうだった理由がわかった。そこには「女性専用車」の文字があった。
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