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「芸術を嗜む人間はここに吸い寄せられるんだ」と彼は言った。「ここ」とは勿論古臭い酒場のことだ。 「芸術家は懐古的な思想が強い。良い者は時間を経て秒針に削りとられた作品を好むんだ。実際そうだろう? 今認められている作品が後一世紀したら忘却の地へと送りだされている可能性だってあるんだ。だから逆に昨今まで残っている芸術作品はその危機を乗り越えた素晴らしき作品と言えるだろう」 彼はまた合法薬物を吸う。そこには一切の躊躇いもなく、平然と口に薬物を運んでいく。 僕はその動作を眺めたあと無口に赤ワインを飲んだ。妙な酸味が舌全体を包み込み、説明しがたい苦味がする。それでも僕は徐々に消化器官へと赤ワインを流し込んでゆく。 「君も何か創る人なのかい?」 僕はきく。 「俺は何も創らない。創ったものを分析する人間だよ」 「学者ってことかい?」 「自称ね」 「なら歳は僕より上なのかな?」 「26歳、通称カラス」と彼は溌剌と述べて灰色の煙を口から吐いた。その煙はゆっくりと天井に向かって進捗したが、やがて消えてしまった。 「年上だ」 「年上も年下も関係ないさ。思慮は年齢とある程度比例するけれど、それは絶対的なものではない。例外だらけさ。だから年齢なんていう概念は無視してくれて構わない」
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