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松下村塾の庭では、晋作と喜助が気分転換に外へ出て空を見上げていた。
「……喜助、何かあったか?」
「何がー?」
喜助は気の抜けた笑みを晋作へ向ける。
「……何だか嬉しそうだからな」
軽く溜め息を吐いて、幸せそうな喜助の顔を見やる。
喜助はまた、にこにこと満面の笑顔になって空を見上げた。
「文ちゃんと義助がいつも以上に仲が良いから、嬉しくてさー」
ぎこちない雰囲気だった義助と文が、今朝にはいつも通りの二人に戻っていた。
それどころか、いつもよりも仲睦まじくなって、昨日のことは気のせいなのかと思うくらいだ。
「……良いよな、お前のそういうところ……」
いつも他人のことを思って、笑ったり、悩んだり、悲しんだりして……。
「自分を優先させる奴の方が圧倒的に多いのにな……」
「へ?晋作何か言った?」
「いや……」
小声でよく聞こえなかったのか、きょとんとした顔で振り返る。
晋作は急に小っ恥ずかしくなって顔を背けた。すると、塾から一人、ふらふらと足取り悪く出てきたのが見えた。
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