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「人を大切にする気持ちが分かったことで、もっと広い視野で物事を見ることができるようになった」
義助自身は自分の変化に気付いていないようだが、文はしっかりとその変化を見ていた。
そして、それを見た文も嬉しくなった。
心の中に隠していた思いを話したことで、心に余裕ができ、軽くなったからこの表情ができたのだ。
「これも、先生が文を……家族を与えてくれたからだと、皆に気づかされた」
なのに…と申し訳なさそうに目を閉じる。
「僕は文も、先生の気持も蔑ろにしてしまった!自分が情けない…。本当にすまなかった!」
義助は文に頭を下げた。
その姿に驚くが、文は優しく微笑んで義助にそっと歩み寄る。
「……いいんです。頭を下げないで」
顔を上げた義助の頬にそっと手を触れて、互いの目と目を合わせた。
「私は義助さんがこんな優しい顔ができるようになって嬉しいのです…。
そんなに自分を責めなくても、大切なことに気付けたのですから、それでいいんです…」
文の言葉にまたも穏やかな気持ちになり、頬に当てられてる文の手に自分の手を重ね「ありがとう」と呟いた。
「…でも、いつかまた文か志かを選ぶ時が来るかもしれない…その時は…」
「……その時は、志を選んで下さい」
そっと手を下ろして、凛とした雰囲気が彼女を包んだ。
「私がいることで義助さんの枷となり、志を成し遂げられなくなるのであれば私は後悔いたしますから」
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