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勇ましい発言に義助は呆然と文の姿を見て、言葉を詰まらせた。
「……普通の女なら私を捨てないでと言うだろう…」
「私は他の方とは一味違うんですよ」
文には珍しい、無邪気そうに笑った顔で義助を見る。
「なんて言ったって、義助さんの師匠である松陰……もとい、寅次郎兄さまの妹ですから!」
得意気になる文を見て、義助は小さく、ふっ…と笑い、文もつられてクスリ、と笑った。
「はは……あははっ」
「ふふふ…」
小さく響いていた笑い声は段々と大きくなり二人を包んだ。
「僕は…文が僕の妻で良かったと思っている。心の底から……」
日没の眩しい光が辺りを赤く染める頃、義助と文はゆっくりと互いを確かめるように抱き合った。
優しくも、力強い抱擁だった。
「……僕は二度と、こんな愚かしい感情に飲まれないように己を鍛え、志も遂げるよ」
雑念を取り除いた義助の眼は迷いがない、澄んだ瞳だった。
「義助さんの言う志を告げる時が来たら私など、さっと捨てて下さい」
「けれど…その時が来るまでは……一緒に…」
「ああ……」
そうしてまた強く抱きしめ合った。
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