第四章 栄太郎の絵

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「俺のどこが暴れ牛だ!」 晋作の怒号が塾内に響き渡る。 「そういうところがだろ?感情の起伏が激しいし」 「キレたら抑えられないもんね、高杉さんは」 杉蔵が晋作の肩にポンッと手を乗せ、弥二郎も面白がって肘でつつく。 「生き物なだけいいだろ。俺なんか“木刀”だぞ?」 杉蔵は言ってて悲しくなったのか、下へと目を反らした。 動物でもなく道具。 気の毒な気分になって杉蔵を責める気にはなれなかった。 “棒きれ”が山県、“暴れ牛”が俺、“木刀”が入江か……。 (ろくな評価がねぇな……。それに比べて……) 紙に描かれたもう一つの絵に視線を向ける。 裃を身に付けた坊主……。 “義助が羨ましいぜ……” 山県のあの呟き……。つまりこの坊主が……。 「……僕の評価は随分と大袈裟すぎると思うんだが」 同じく輪の中にいた義助は不相応だと言ってやまない。 (……やっぱり。坊主は久坂か) 義助が高評価だと流石に晋作も面白くなく、苛立ちを見せた。 「……おい栄太、贔屓してんじゃねぇぞ」 晋作はあからさまに不機嫌な様子で栄太郎を睨む。 .
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