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彼女――三枝 綾乃との出会いは、実はよく覚えていない。
彼女とは、気づいたら仲良くなっていた、という感じ。
彼女が言うには入学式の時に話したらしいけれど、そこらへんの記憶は結構曖昧で、ああそう言われればそうだったかもしれないなあ、と呟いたら、彼女はあからさまに不機嫌になった。
「何で覚えてないの」
悲しそうに、悔しそうに言う綾乃の表情に、私は戸惑った。
私たちは放課後の教室に残っていた。
私たち以外には誰もいない、そこは静かな空間だった。
整然と並べられた机の表面を、窓から差し込む夕焼けの光が柔らかく照らしている。
掃除が終わってからさっさと帰ればよかったのだけれど、何となく名残惜しくなって、二人してぐだぐだと話していたら、突然二人の出会いの話になったのだ。
「何でって言われても……。ほら、私たち中一の時は違うクラスだったじゃない」
「だから?」
「だから……入学式で会ったことなんて、すぐ忘れちゃうよ」
言ってから、ああ今のは失言だったと思った。
彼女の影が一層濃くなったのがわかった。
慌てて謝ると、綾乃はそっぽを向いて、いいよ別に、と言った。
嘘つけ。どうみても機嫌悪いじゃないか。
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