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どうにも居心地悪くなって、腰掛けている机にもぞもぞと座りなおした。
ちらりと彼女を窺うと、まだそっぽを向いたままだった。
――ああもう、面倒くさいなあ。
心の中で毒づく。
綾乃のことは好きだけれど、こういう変に子供っぽいところは直して欲しいと思う。
そもそも何でそんなに入学式の出会いについて固執するのかがわからない。
――――いや、嘘だ。本当は、わかっている。彼女がどうしてそんなに私との出会いを大切にするのか。
どこかから、かすかにピアノの音色が聞こえてきた。音楽部だろうか。ベートーベンの幽霊が出てくるには、まだ少し早い時間だと思うから、多分そうだろう。
「帰ろっか」
綾乃が、ぽつりと言った。
私がそうだね、と答えると、綾乃は無言で自分の鞄を掴み、扉へと向かった。
慌ててそれを追い掛ける。
私と彼女ではコンパスの長さが違うのだ。油断していると、あっさり引き離されてしまう。
もっとも、彼女はそれを気遣って、いつも歩調をゆっくりにしてくれているのだけれど。
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