神山 日出子の場合①

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綾乃の手を握る、というのは、彼女の機嫌をとる手の一つだった。 手をとり、笑いかけると、彼女はわかりやすく緊張した。 その状態を維持していると、彼女は怒りやら何やらよりも、恥ずかしさの方が上回ってしまうらしく、最終的には顔を真っ赤にして許してくれるのだった。 何度やってもそれは変わらなかったので、私は何度でも同じ手を使った。 ――綾乃はきっと、私のことが好きなのだ。 そう思うことを、自惚れだとは感じなかった。何故か、そうに違いないという絶対的な自信があった。 未だ顔を赤くさせている綾乃が、繋いでいる手を軽く振った。 「日出子」 「うん?」 「手、はなして」 「えー。繋いで帰ろうよー」 「っ……いいから!」 綾乃の左手が、繋いだ手を無理やり引き剥がした。 素直じゃないなあ、と心中で呟く。
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