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綾乃の手を握る、というのは、彼女の機嫌をとる手の一つだった。
手をとり、笑いかけると、彼女はわかりやすく緊張した。
その状態を維持していると、彼女は怒りやら何やらよりも、恥ずかしさの方が上回ってしまうらしく、最終的には顔を真っ赤にして許してくれるのだった。
何度やってもそれは変わらなかったので、私は何度でも同じ手を使った。
――綾乃はきっと、私のことが好きなのだ。
そう思うことを、自惚れだとは感じなかった。何故か、そうに違いないという絶対的な自信があった。
未だ顔を赤くさせている綾乃が、繋いでいる手を軽く振った。
「日出子」
「うん?」
「手、はなして」
「えー。繋いで帰ろうよー」
「っ……いいから!」
綾乃の左手が、繋いだ手を無理やり引き剥がした。
素直じゃないなあ、と心中で呟く。
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