神山 日出子の場合①

6/12
前へ
/21ページ
次へ
剥がされてしまった手をぶらぶらとさせながら、私は彼女に話しかけた。 「ねえ、綾乃。もうすぐ春だねえ」 「はあ? まだ冬にもなってないじゃん」 「いやいや。今月もあと少しで終わりでしょー? そしたら、11月、12月、冬休み挟んで1月、2月、3月!で、あっという間に春だよ。新学期だよ」 「まだまだ遠いって。半年あるよ」 笑い混じりに、綾乃が呆れた声を出す。 よかった。機嫌はもうすっかり直ったようだ。 「ね、綾乃。来年も同じクラスになれるといいね」 腕を絡め、無邪気を装って綾乃に笑いかける。 先ほどよりも密着した行為。 しかし、私の動作はよほど自然だったのか、彼女は頬を赤く染めるだけで拒絶はしなかった。 黙ってしまう彼女は、素直じゃなくて可愛いと思う。 本当は嬉しいくせに、と私は内心意地悪く笑った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加