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校舎から出ると、夕焼けが目に痛いほど真っ赤だった。
その美しさにしばし、見惚れていると、
「あ、日出子先輩」
「え」
突然声をかけられた。
振り向くと、体操着の少女がこちらを見ていた。
今まで走っていたのか、少し息が上がっている。
私と同じショートカットの黒髪が、汗ばんだ頬にぴたりと張り付いた様子が少し艶っぽい。
彼女の名前は知っている。
細川 のぞみ。
私はのぞみちゃん、と呼んでいる。
一つ年下の、中学三年生だ。
私と同じ髪型をしていて、よく似た背格好である彼女とは、少し前までは、双子に見られることがしばしばあった。とはいっても、顔立ちは全然違うのだが。
切れ長の瞳とすらっとした鼻筋をもつ彼女は、私よりもずっと大人っぽい。
可愛いというよりも、綺麗という誉め言葉が似合う美人である。
彼女とは、まあ、その……色々あって、交流が途絶えていた。
「久しぶりだね」
「あ、お久しぶり……です」
声をかけた本人は、しまった、という顔をしている。
どうやら反射的に声をかけてしまったらしい。
気まずい沈黙が数秒流れる。
彼女が一瞬だけ、私たちの組んだ腕を睨み付けた。
――しまった。誤解したかな。
内心舌打ちをしつつも、私は彼女に笑いかけた。
「部活? 終わったの?」
「ええ、まあ」
のぞみちゃんが、視線を彷徨わせながら返事をした。
無意識なのか、体操服の端をぎゅっと掴んでいる。
困惑を隠せない不器用さが可愛らしい。
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