神山 日出子の場合①

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この学校には、校庭というものがない。 住宅街にあるという点を考慮して、そうなっているのだろう。 代わりに、片道徒歩20分の場所にある土手の一部を土地として持っていて、運動部や体育の授業の時は、そこをグラウンドとして使っている。 「部活お疲れ様。えっと……サッカー部だったっけ?」 「ソフトボール部、です」 ――あ、失敗。 のぞみちゃんが顔を歪めたのを見てそう思った。 ……ああ、そうだ。サッカー部なのはのぞみちゃんじゃなくて、あの子だった。 やっぱり曖昧な記憶は失言を招くなあ、と私は苦く笑った。 「すみません。失礼します」 のぞみちゃんは一言だけそう言って、私からの返答を待たずに校舎に入っていった。 すれ違い様に見た顔は、今にも泣きそうだった。 ずきん、と胸が痛む。 傷つけてしまったという罪悪感と、今すぐ追いかけて抱きしめたいという衝動。 その衝動のままに動き出そうとした体を、理性が止める。お前にそんな資格はないのだと。
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