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「今のって」
ぽつりと、綾乃が呟いた。独り言かと思うほど小さい声だった。
「ん? のぞみちゃんのこと?」
「恋人じゃないの? 今の」
「ああ、別れたよ。ついこの間」
さらりとそう告げると、綾乃は一瞬目を丸くしたが、すぐ呆れたようにため息をついた。
「あんたねえ……いい加減にしなよ?」
「えー?」
「『えー?』じゃない」
「だって、私から別れを切り出したわけじゃないんだよ?」
「でもあんたが原因でしょ」
「うーん……」
曖昧に笑う私に、綾乃は再びため息を吐き出した。
今度のは、少しわざとらしい。
「ねえ、帰ろうよ」
組んだ腕をくいと引っ張ったが、綾乃は動かなかった。
どうしたのかと、そっと見上げると、彼女と目が合った。
まっすぐこちらを射てくる鋭い瞳に、どきりとする。
彼女は自分の目が嫌いらしいが、私は好きだった。
――そういえば、顔立ちだけでいうなら、のぞみちゃんと綾乃は結構似ているな。
「日出子さ、そういうの、もうやめなよ」
厳しい声で、綾乃が言った。
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