神山 日出子の場合①

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「今のって」 ぽつりと、綾乃が呟いた。独り言かと思うほど小さい声だった。 「ん? のぞみちゃんのこと?」 「恋人じゃないの? 今の」 「ああ、別れたよ。ついこの間」 さらりとそう告げると、綾乃は一瞬目を丸くしたが、すぐ呆れたようにため息をついた。 「あんたねえ……いい加減にしなよ?」 「えー?」 「『えー?』じゃない」 「だって、私から別れを切り出したわけじゃないんだよ?」 「でもあんたが原因でしょ」 「うーん……」 曖昧に笑う私に、綾乃は再びため息を吐き出した。 今度のは、少しわざとらしい。 「ねえ、帰ろうよ」 組んだ腕をくいと引っ張ったが、綾乃は動かなかった。 どうしたのかと、そっと見上げると、彼女と目が合った。 まっすぐこちらを射てくる鋭い瞳に、どきりとする。 彼女は自分の目が嫌いらしいが、私は好きだった。 ――そういえば、顔立ちだけでいうなら、のぞみちゃんと綾乃は結構似ているな。 「日出子さ、そういうの、もうやめなよ」 厳しい声で、綾乃が言った。
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