三枝 綾乃のプロローグ

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格好良くきめようと思っていた告白の言葉は、情けないことに震えてしまった。顔もきっと真っ赤だろうし、瞳も少し潤んでいるかもしれない。いっぱいいっぱいの状態だ。 対して目の前の彼女は、告白されたのにも関わらず、同様の欠片も見せなかった。じっと私を見返す彼女の顔からは、何の感情も読み取れない。 卒業証書が入れられた黒筒をぎゅっと握り締めながら、私は彼女の顔を見つめ返した。 神山 日出子(かみやま ひでこ)。 それが、私の告白した相手の名前。 相手は正真正銘の女の子で――――…同性である。 「ずっと好きだったんだ」 流れ続ける沈黙を打ち消すように、もう一度告白した。 瞬間、涙がこぼれた。 すき。 ただそれだけを伝えるために、私がどれほど葛藤したか、きっと彼女は知らないだろう。 一度流してしまった涙は止まらず、ぼろぼろと溢れては頬をつたった。 急に涙を流した私に、日出子が少し驚いた顔をした。 そんな顔でさえ愛しいと思うのだから、私は重症なのだと思う。 風が数粒の涙をさらっていった。吹き付けられた涙の痕が、冷たくて痛い。 ああきっと、今の私はひどい顔をしている。 告白しておいて泣き出すなんて、彼女は呆れているだろうと、そっと彼女の顔を窺う。 そして、涙で歪んだ視界の中、彼女の唇がゆるやかに曲線を描いているのを見た。 ――――…え? ――――笑っ……た? 「うん、知ってたよ」 あっけらかんと。 あまりにも、あっけらかんと。 彼女はそう言った。 ――――…は?
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