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彼女――神山 日出子と出会ったのは、中学の入学式だった。
私立桜川女子学校。
桜並木が美しい、閑静とした住宅街の中に、『異質』なものとしてその学校はあった。
地元でもお嬢様学校として有名なその女子校は、煉瓦造りの由緒ある洋館のような外見をしていた。
昔の外国映画から切り取ってきたような重厚さが、まるで自分がお嬢様になったかのような錯覚を覚えさせる。
聞いた話では、この校舎に憧れて受験を決意する人も多いらしい。
実際校舎を目にした時、なるほど、と思わないでもなかったが、それ以上に、近代建築の中の古めかしい洋館という浮いた存在に、私はどこか滑稽さを感じてしまう。
周りの少女や保護者が笑顔で校舎に入っていく様子を見ながら、私は深く重いため息をついた。
「ちょっと」
横から小突かれる。母だった。
「いつまでいじけてんの。入学式よ、入学式。しゃきっとしなさい」
「だってさあ……」
「何の不満があるの。いい学校よ、ここは」
そう言いながら校舎を見て、母は懐かしそうに目を細めた。
変わらないわねえ、ここは。
小さな呟きが聞こえた。
たぶん、昔に思いを馳せているのだろう。なにしろここは母の母校なのだ。うっとりとしている母を横目に、私はこっそりため息をついた。
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