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――本当は、共学に行きたかったんだよ……私は……。
わざわざ片道1時間半かかる私立なんか行かなくても、地元の中学で良かったのだ、私としては。知り合いもいるし、家から近いし。
まあ中高一貫というところだけいいとは思うが、正直気が重いというのが本音だった。
――そんなこと、口が裂けても言えないけど。
周りを見回すと、桜並木が目に入った。
その年の冬は温暖だったため、すっかり葉桜に変わってしまっていた。
入学式のムード台無しのその様も、私の暗い気持ちに拍車をかけた。
――女子校って、やっぱり陰湿ないじめとかあんのかなあ……。私なんて、絶対『目つきが悪い』って言われていじめられるよ……。
どんどんマイナスになっていく思考は、突然現れた声によって遮られた。
「入らないの?」
ちりん、と、鈴が鳴るような軽やかな声だった。知らない声だ。
振り向くと、花が綻ぶような笑顔が目の前にあった。
不覚にも、どきん、とした。
話しかけてきたのは、私の肩のあたりに頭がある、小柄な少女だった。
特筆すべきはその愛らしさだ。
ショートカットの漆黒の髪は、滑らかな色白の頬にふわりとかかり、桜色の唇は緩く弧を描いている。地が笑い顔なのだろうか。髪と同じ漆黒の瞳も、優しい色をたたえていた。
制服を着ている、というより制服に着られているというのが正しい表現に思えるほど小柄な少女は、まだ小学校低学年だと言われても通用しそうだ。
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