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「私は、三枝 綾乃。三本の枝に糸偏の綾に、えっと……乃木希典の乃……でわかる?」
「わかるわかる。綾乃、ね。よろしく、綾乃」
さらっと呼び捨てにされたが、嫌な気持ちはしなかった。
むしろ、嬉しい、という感情が胸に満ちる。
「それじゃあ、また。急いだほうがいいよ」
そう言って、日出子は引き止める暇もなく校舎に入っていってしまった。
去っていく背中をぼんやり見届けていると、母にばん、と背中をたたかれた。痛い。
「ほら、あんたもさっさと行く! 入学式に遅刻なんて、やめてよね」
強い口調でそう言った後、母はふと口元を綻ばせた。
「良かったじゃない、あんな可愛い子が話しかけてくれて。同じクラスになれるといいわね」
「う、うん……」
母の言葉に、私は曖昧に頷いた。
まだ、駆けていく彼女の背中が目に焼きついている。
それが、神山 日出子との出会いだった。
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