恋する悪役

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「お兄さん、今日も負けたの」  ランプが一生懸命に照らす部屋の中で、淡いピンクがふわりと揺れる。  言い返す気にもなれず、そうですね、負けましたね、と返すと彼女は不満そうに眉をよせた。 「しょうがないだろ、俺は下っ端のやられ役なんだから。勇者様に倒されることが仕事になってきてる気さえするし」  どうやったって勇者様には敵わない。こっちは丸腰、あっちはひのきの棒にぼろい盾。ささやかな差だけども、確かな差であることに違いはない。 「だってこっちは悪役ですよ。悪が正義にかなうはずがない。いつだって悪は倒されるべきものなんだからさ」  村から盗んできたカステラを差し出すと、少女はあからさまに嫌な顔をした。 「悪事を働かなきゃ勇者様が倒す意味がないだろうて」  要するに盗みも立派な仕事の一環なんだ、とカステラをほうばりながらささやかな弁明をする。  ちなみに、負けて『覚えてやがれ!』と泣きべそかきながら逃げ去るのも仕事の一環なんだけど、なんとなく情けなくて言うのはよしておいた。  悪役とはいえ俺も男である。豆粒ほどのプライドは持ち合わせているつもりだ。
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