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「俺は知らんぞ。あんな森に入ったら最期、二度と出れなくなって結局は死ぬんだ」
「大丈夫さ、凍え死なないようにはしてあるんだ。それに誰も行かないなら傭兵には会わないだろ?」
そう、あんな森に人は行かない。
「……そういう問題じゃないんだよ」
知り合い以上、親友以下の同年代の男の忠告で浮き足立つほど、青年の決意、いや覚悟が撓むことはない。
「はっ、まあいい。トーシャ、このことは言わねえからな。死は覚悟しとけよ」
青年の名前はトーシャ。でも、今だけは青年の方がいい。
お慰みがあれば、この後激突する孤独を和らげるし、青年という言葉はもう使わないだろう。だから。
森は目の前ではないが、右側に振り向いて目を凝らせば確かに視認出来る。
まるで、その先から世界が行き止まりに見えたし、そう感じた。
季節は冬で、太陽は僅かしか昇らず、空は幻想的な紫色をして、雪も精霊の涙の様だったというのも一つの理由だ。
青年は計画を実行するときが今、来ようとしている。
何をといえば要するに、国から逃亡し、他国で生きることだ。
逃亡というよりも祖国だから亡命の方が正しいか。
そしてエメリア共和国に行くことは都合が良かった。
なぜなら、言語はほぼ同じで、訛りがあるぐらいだからだ。
さらに知人がそこにいることも亡命しようとした動機。
風が収まった時なんか見たことない。
背中に大きな荷物を抱え込んで、南の方向、コートスの森と名付けられた森へ行くことになる。 気温は氷点下まで下がり、体の身震いは止まらない。
そんな中で、初めて目の当たりにするコートスの森。
獣の餌にだけにはならないと、
青年は決意した。
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