天然至上主義3

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ついにあの件にてんちゃんが触れてしまう。あの時の光景をどんな風に瞳に写したのか…… 「確かに……どんな理由があったとしても人に手を上げるのはいけないことだよね」 そう、てんちゃんはいつだって正しい。正しいだけに……辛い。 本棚から唯一見える原田さんの細い膝は、どこか余裕を持って交差される。ほくそ笑んでいる様子が安易に思い浮かんだ。 「……っ」 あたしは我慢できずに背を向けていた方へと振り返り、本棚に指を掛けて膝立ちをする。高さを変えた隙間からギリギリ見えたのは、ニッと口角の上がった大好きな唇だった。 「でも……朝子はなにもないのにあんなことはしないよ、絶対に」 ぶわっと鳥肌が立って……本棚に掛けていた指も膝の力も抜けると、あたしはその場にへたりと座り込む。丸く円を描いたスカートの上に手を静かに落として、呆然とした。 「…………じゃあ……ゆかりが悪いって言うんですか……」 予想外の発言に為す術のない原田さんは苛立ちを露にするも、てんちゃんは冷静だった。 「そうじゃない。ただオレは……朝子を信じてるから」
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