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クリアなてんちゃんの声……それはあたしの微熱を誘うのには十分な威力だった。
「……っ!」
てんちゃんの触れた耳からあっという間に熱が回って、全身が真っ赤になっていく。抱き締めていた本は腕から床へとすり抜け、大きな音を立てて倒れた。
あたしに聞いて欲しかったって……それって……
借り物の本を拾わなきゃとは思うのに、自分のことで精一杯。あたしは手のひらでドキドキがこだまする右耳を覆い隠す。
「朝子」
大好きな声と特別な響き。きっと今、美しい猫みたいな口であたしを呼んでいるんだ。
強い引力に逆らえる訳がなく、吸い寄せられるように高揚した情けない顔を上げると、てんちゃんは対照的に涼しい顔をしていた。
ずるいよ、てんちゃん。一人で真っ赤になって、一喜一憂させられて、あたしばっかり余裕がないの?
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