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ドキドキでおかしくなりそうなあたしを見て、てんちゃんはフッと笑う。そして満足そうに自分の下唇を親指でなぞると、突拍子もないもないことを口にした。
「朝子はさ……オレ以外に朝子って名前で呼ぶ人はいる?」
「え……?」
急に振られた話題に、あたしの目が点になる。どうしてそんなことを聞かれるのか……疑問はあるものの、そう難しい問題でもなくあたしは素直に答えた。
「お父さんとお母さん……と、ひろみ……かな?」
「じゃあ、おじさんとおばさんと女友達以外は?」
「……いないよ……?」
謎の確認に更なる謎は深まるばかり。あたしが首を傾げると、それに合わせててんちゃんも首の角度を変えて、お互いの視線を絡め合わせる。
てんちゃんは組んだ手のひらを胡座で交差する足首の上に置くと、穏やかな雰囲気から一変して真剣な表情になった。
「なあ、朝子。約束しないか?」
「……約束?」
「そう、オレ以外の男に……絶対に朝子って呼ばせない約束」
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