二章 不思議の国

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 蹴られた石は斜め上に飛び上がり、放物線を描いて地面へと着地────しなかった。 「なっ……!?」  潤一は思わず言葉を失う。 自分が何気なく蹴り飛ばした石ころは、放物線を描くどころか、ほぼ水平に物凄い勢いで飛び出したのだ。  びゅおんッ! と唸る豪速球(石ころ)は、木々の生い茂る森の中へと吸い込まれていく。  それは一本の木に当たって、跳ね返ってまた別の木に当り、跳ね返って、跳ね返って、そして──── 「グギャッ!!」 悲鳴じみた声が聞こえた。 ……何かに、当たった。 「ジュン! 何やってるの!?」  その声に気付いたエリスが振り向き、声を上げる。 「えっ、いや……石ころ蹴ったらさ、なんか人に当たっちゃったみたいなんだけど……」 「こんな所に私達以外の人がいるわけないじゃない! あれは……」  木の陰で蠢く悲鳴の主を見て、エリスの表情が強張る。  そんな彼女のただならぬ様子を察した潤一だったが、 「な、ななな何だってんだ? なぁ、おい!」 動揺するしかなかった。  そんな潤一の頭上で、マオが呟く。 「まずいことになったですね……」  木の陰で蠢くそれを見据えながらマオが放った次の言葉に、潤一は衝撃を受けずにはいられなかった。 「あれは……、魔物なのです」  異形の影が、大きく揺らめいた──────
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