174人が本棚に入れています
本棚に追加
『もう、あんたとは付き合ってらんないっ!』
ある日突然、付き合ってもうすぐ1年になる彼女から言われた。
『なんでだよ……』
そう聞いた俺に、彼女のアズサが口ごもる。
『なんだよっ! ちゃんと理由を言えよ。俺の何が嫌なんだよ。なんで付き合ってられんのよ』
『だって……』
『だってなんだよ』
『…………くさい』
『はぁ?』
『だからっ、線香臭いんだってばっ!』
(何言ってんの?)
一瞬「ジジくさい」って言われたかと思ったけど違った。
線香臭いって……。
なーんだ、そんな事か。
『当たり前じゃん、俺、葬儀屋で働いてんだから』
そう笑う俺にアズサは、黙ったままこちらを見ていた。
『俺は線香の匂いって好き』
『アタシは嫌い』
『なんで? 線香の匂いっていいじゃん』
『いくないよ。なんか、あんたと居ると、いつも仏壇の前でデートしてる気分になる』
仏壇……。
いいじゃんか。
最初のコメントを投稿しよう!