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別れの原因は、俺が線香臭い事。
それがホントの理由かは解らない。
俺の何かが嫌で、でも、それを言えないが為に、線香を持ち出したのかもしれない。
『いや、マジでお前って線香臭いぜ。微かに臭う。風呂入ってるか?』
小学校からの友達のユウジが言う。
『風呂は入ってるさ。そうか? そんなに匂うか? やっぱお香の代わりに部屋で線香ってまずいかな』
『はぁ? お前、部屋で線香焚いてんの? そりゃ匂いが染み込むさ』
ユウジが驚いたように言う。
『香水の匂いだと思えばいいべや』
『線香のか?』
『そうさ、新しく出たんだ。これは流行るぜ』
『バカじゃねぇの? 流行るわけ無いじゃん』
『お前さぁ、俺達って日本人なんだぜ? 混じりっけのない生粋の日本人。その日本人に一番深い関係なのが線香だと思わん?』
首を捻るユウジに俺は更に話す。
『なんつーの? 俺は落ち着くわけよ。線香の匂いってさ、なんか子供の頃から好きなんだわ』
一緒に暮らしていた爺ちゃんが亡くなったのは、俺が小学生の時。
和室に寝かされた爺ちゃんの傍には、火のついた長い線香があった。
その火を絶やしてはいけないと、大人達は代わる代わる線香をあげる。
俺もそれに習い線香をあげた事を思い出した。
あの時が、記憶に新しい俺と線香の出会いだった。
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