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「君は丸三年。意識不明状態だったんだよ」
1時間にも及ぶ
長々しい説明で
ようやくここが
病院であるという
事と、自分の名前が
戸籍上、夏樹朝顔
という妙な名前で
ある事を理解した
僕にビーバーの様な
顔をした医者が
そう告げた。
「………はい?」
その医者が教えて
くれた専門的な
呼吸法でなんとか
喋れる様になった
僕は、多分誰もが
あ、こいつ間抜け
と思う様な返事を
する。
「ま。そうなるのも。無理は無いよね。詳しい説明は追々するからさ。今日は取り敢えずその混乱した頭を鎮めなさい」
そう言って、ビーバー
顔の医者はクルリと椅子
を回転させ、僕に背を
向けた。
「…………えっと?」
ビーバー顔の医者の
傍らに石像の様に
直立不動で立つ
看護師に目を向ける。
するとその看護師は
ビーバー顔の医者
をチラリと見据え
溜め息混じりに
僕の車椅子を
押し始めた。
「あの人は性格はアレだけど腕はスゴいのよ?巷ではスネークロッドって呼ばれてるのよ」
看護師、美鶴要さん
は言う。
「君の怪我だって世界中の医者が匙を投げる程重たい物だったんだから」
美鶴さん曰わく
「あの人に治せないのは、バカと老衰だけよ」
らしい。
「僕はなんでそんな怪我を?」
真っ白なイメージしか
出てこない綺麗な廊下
を、キコキコと高い音を
立てながら、僕と美鶴さん
は進む。
「それが分からないの。世界中の、本当に色々な病院をたらい回しにされたから、どこで怪我したかが分からなくなったの」
「世界中の?」
それも変な話だ。
重傷ならそんな
余裕は無いと思う
けどな。
「頭だから。簡単に言うと頭の中で脳味噌グチャグチャ状態だったって感じかな」
「………………」
「ま、それより今日はゆっくりしなさい。私が1日付いていてあげるから」
美鶴さんは車椅子を
押しながら身を乗り出し
短く切りそろえられた
髪を揺らしながら
僕にウインクした。
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