ESCAPE 1

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「夏樹朝顔15才。男。血液型はB。身長170cm。体重56kg。1/4だけ白人の血が混じってるわね。それから蟹アレルギー。ま、今分かってるのはそれ位ね」 持っていたファイル をパタンと閉じ 美鶴さんは顔を 上げた。 「か、蟹アレルギーですか…」 「そ、蟹。身分証明書みたいな物を持ってなかったから、それ位しか分からないわ。一応名前だけは名札があったから分かったけど」 ベッドの横に 置いてある棚から ペラペラの紙を一枚 取り出し、僕に 突きつける美鶴さん。 その紙には、パソコン で打った様なカクカク した文字で、確かに 『夏樹朝顔』と書いて あった。 「これだけ…、ですか…」 「そうよ。で、君」 「はい?」 美鶴さんは胸ポケット に差してあるボールペン を僕に渡し、それから ファイルを漁り、紙と 下敷きを取り出して僕 に渡した。 「これに住所と電話番号。それから家族構成、生年月日を書いて頂戴」 「…………え」 紙とボールペンを手に 僕はピタリと止まった。 「どうしたの?」 「………えー………と」 「ああ、まだ腕が動かないのね。なら口頭で伝えて」 美鶴さんは僕から 紙とボールペンを 引ったくった。 「………………」 「………………」 書けるわけがない。 言えるわけがない。 だって。 「すいません。僕、多分、俗に言う記憶喪失になってるみたいです…」 「……え?」
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