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 もう一本新しく取り出した煙草に火を点けると、顔を傾ける角度を失敗したのか火種から上った濃い色の煙が目に入って刺すような痛みを生じた。  睡眠不足で叩き起こされたのに置いて行かれるし、腹立ち紛れに点火した煙草の煙は目に入って痛いし、それだけでも詩乃にとっては充分踏んだり蹴ったりな気分だ。  もう知らない。  本当に知らない。  この車がもし盗難に遭ったとしても、あたしが悪い訳じゃない。  置いて行った慎二と車両を盗難するような相手が悪いし、既に充分待ってあげたんだからこの一本を吸い終わったら車を出よう。  決意の眼差しで、詩乃は灰皿を手元に引き寄せて喫煙を満喫する事に専念した。  高速でスパスパといつもは5分ほどかかる煙草一本分を一心不乱に3分程度で吸い尽くした詩乃は、急激に摂取した毒に酔ったのか頭の奥がグラグラ揺れる感覚を味わった。  最初はこの酔ったようにクラクラする感覚が気に入って吸い続けてきたが、良い気分を超えると二日酔いのように吐き気が来る。  今はその一歩手前で、もう一本吸ってしまったら確実にアウトだろう。  ただのムカムカではなく胃がムカムカする点は自業自得の逆恨みだと分かってはいても、詩乃は慎二の居ない運転席をじっとり睨み付けてしまう。  よく考えると慎二の車両が盗難なんかに遭えば、詩乃としても足を宛てにできる相手がいないのでかなり困る事になるのだ。  やっぱり、出るに出られない。 「……。」  その時ふと、詩乃の視界の端になにかが映った。
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