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そこには机も本棚も無く、床に描かれた巨大な魔法陣だけが妖しく輝いていた。
「これは……雪銀城の麓にあった魔法陣と同じものか」
「というより、次元の扉を開くための魔法陣ね。凄い……こんなに安定した陣なんて初めて……」
弘樹は不審に、アリスは興味津々に、理由は違うが互いに陣を眺めていた。
すると急に魔法陣の淡い紫の光が輝き始め、部屋の中を眩い光が包み込み、二人が思わず顔を腕で覆うと誰かの気配を感じ取る。
「……誰だ!」
弘樹が問うと、徐々に光が弱まっていく。
「――私はネリーフィス。光の守護者であり、創造神と呼ばれし者」
『っ!?』
その声色を聞いたときの衝撃がどれほどのものだったか。
特に弘樹は身震いすら覚えた。その声色が、かつて愛した少女のものだったからだ。
すぐに顔を覆う腕を解いて魔法陣に視線を合わせると、白く優しい光を放つ球体が浮かんでいる。
「お久しぶりですね、ヒロキさん。本当に懐かしく思います」
「ネリーフィス……どうして、君が? あの世界で何かあったのか?」
「はい。理想世界に重大な異変が生じました。率直にお伝えします。守護者ヴァルカンが何者かに捕らえられ、行方不明です」
「なっ!?」
「しかも、現在各国の村や町が謎の勢力の襲撃を受けています。そこで私は貴方に今一度願います。どうか、再び理想世界で剣を握ってもらえないでしょうか?」
「……なぜ姿を見せない?」
まるで茶を濁すように反問した弘樹。
「今の私は肉体を持ちません。そして、守護者である私はこの世界にとってあまり良い存在とはいえないのです。ヒロキさん、どうかご決断を」
「…………一晩、考えたい。行くにしても準備がある」
「分かりました。では、決心がついたなら、またここでお会いしましょう。では」
ネリーフィスは魔法陣の中に消えていき、静けさが戻った地下室の中に弘樹の溜息が響き渡る。
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