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「はぁ~……面倒なことになったなぁ」
「義兄さん! い、今のって……もしかして……」
「そう。向こうの世界の神様……といっても、親父が作り出した精霊だ。理想世界を管理している」
「どうして期限を延ばしたりしたの? 準備さえ整えばすぐにいけるじゃない!」
「今回は……いや、前回もそうだったけど、かなり事が複雑そうだ。それに向こうの世界は生半可な覚悟じゃ生きていけない。理想世界といっても安全なのは町の中だけ。一歩外に出れば、賊や獣たちに襲われる。準備するにしてもしっかりとしないとダメだ」
経験者の言葉ほど説得力があるものはない。
アリスは押し黙り、弘樹は部屋に篭ってベッドに寝転がり、天井を見つめて思案に暮れる。
――行くべきか、行かざるべきか……まさかヴァルカンが捕らえられるとは思わなかった。どうやってあの守護者を捕らえるんだ? 方法は何にせよ、今回の敵はヴァルカンよりも強いということか。これは勝ち目が見えないなぁ。俺も炎の力を失ったし……他の守護者の力を集めれば何とか……いや、楽観視など出来ない。どうしたものかなぁ。
まさか、これも親父の…………否だよな。親父はあの時……彼女と一緒に――。
「義兄さん? 入ってもいい?」
「どうぞ」
アリスが部屋に入ると、弘樹は寝転んだ姿勢からベッドに腰掛けて彼女を迎える。
「英雄さんも大変ね」
「何度も死に掛けたからな。それに、俺は英雄なんかじゃない……一番大切な人を守れなかったのだから……」
部屋の中に沈黙が訪れる。彼女が消滅したのは、決して弘樹の所為ではない。
だが彼は、消え逝く彼女を抱くことしか出来なかったことを今でも悔んでいる。
アリスもそのことを知っているため声を荒げた。
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