第2章 英雄の帰還

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「謎の勢力は、我が国でもよく耳にする。村々が襲われているので王立軍を護衛につかせているけれど、襲われた村の生き残りが口を揃えて言う。あれは神出鬼没だと。何の前触れも無く現れて、旗も掲げない騎馬隊によって蹂躙されている。手がかりも何も残らないから、こちらも確たる情報が無い」 「当初は闇の軍勢の残党かと思われましたが、それにしても戦術や規模が妙なのです。どうにもおかしい。ともあれ、今はようやく先の大戦の復興が叶った時期。警戒するにしてもそちらに集中するだけの余力はありません」 「そう……ですか……」  軍の協力が得られないことにがっかりする弘樹だったが、各拠点では最大限に助力するように伝令を飛ばすということになったので、一先ず、旅の疲れを癒すように言われて部屋を二人分用意された。  屋敷暮らしが慣れていたアリスも、一国の城の豪華な客間には驚いたようだ。  もしくはすっかり庶民化してしまったのか……。 「またヒロキ様のお世話が出来て、とても光栄です」 「ありがとう。また頼むよ。ヘレン」  メイスの配慮だったのか、弘樹の世話係はメイド長自身が務まることになり、久方ぶりに戻ってきた自分の部屋に落ち着いた弘樹は以前に使っていたベッドに寝転ぶ。  ふと机の上を見ると、そこには以前使っていた衣服が畳まれていた。  白いシャツに皮のベスト、黒いズボンとヘレン手製の紅いマント……。  懐かしくなった弘樹は早速着替えた。大きさも丁度よく、とても馴染む。  鏡の前に立つ自分を見つめた弘樹は、仲間たちと旅をしていたころを鮮明に思い出して胸の中が温かくなった。  しかしのんびりは出来ない。  裏門で師が待っているため、少し休んだら、アリスも連れて裏門に向かった。  彼女もこの世界の衣服に着替えている。フリルが付いた青白いシャツに、紺色のスカートだ。腰には大きなリボンが結われている。  長い金髪も黒いリボンでツインテールになっていた。
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