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「へぇ、似合うじゃないか」
「義兄さんこそ。とても似合っているわ」
裏門の壁に寄りかかって瞑想するヴェルディンは、弘樹の気配を察すると目を開き、持っていた長剣を投げ渡す。
乾いた音と共に刃を抜き払い、構える。
「よろしくお願いします」
「手加減は無しだ」
「もちろん!」
二人が剣戟を繰り広げる様を積み上げられた材木に腰掛けて眺めるアリス。
正直、暇だった。義兄とヴェルディンの試合は素人の目から見ても凄いものだと感じるが、剣術に興味が無いアリスにはどうでもいいことで、甲高い金属音を聞きながら魔術の練習でもしようと思って手の平に魔力を注ぐが……。
――あれ? 発動しない?
どれだけ魔力を注いでも、術が発動することはなかった。
一体どういうことなのか首を傾げるアリスの脇では、剣の師弟が楽しげに打ち合いを続けている。
一合を打ち合うごとに弘樹の心中では歓喜が沸き返る。
現実世界で道場をしていたときも、弘樹の噂を聞いた剣道の達人らが挑み、見事に敗北していった。
平静の微温湯の中で鍛えた剣術など、死線を掻い潜ってきた剣に勝てるはずがない。
ゆえに、現実世界のレベルの低さに失望していた弘樹にとって、この試合こそ待ち望んでいたものだった。
そして、自身もまた、微温湯におぼれていたことを思い知る……。
「ふっ!」
「あっ!」
握っていたはずの剣が宙を舞い、地面に突き刺さる。
「腕が衰えたようだな。鍛錬を怠ったのか?」
「いえ……そういうわけでは……」
「ふん、まあいい。衰えたとはいえ中々の腕であることに変わりは無い。すぐに勘を取り戻すだろう」
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