第2章 英雄の帰還

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  月牙を鞘に納めたヴェルディンは、口の端を釣り上げて微かに笑い、昼食時の鐘が鳴るとマントを翻して城内に消えていった。  静まり返る裏門に立ち尽くす弘樹は溜息を吐き、突き刺さった剣を拾って武器庫に仕舞う。 「あの人って強いね」 「師匠だからなぁ。俺も腕が鈍った。早く取り戻さないと」  背伸びをしながら裏門から離れる弘樹とアリスは、部屋に戻って今後の方針を決めるために話し合う。  カルナインでは情報が少なすぎるため、近いうちに国土が広いブレスト帝国にわたる必要があると感じていた弘樹だったが、本心では、あまりブレストには行きたくなかった。  あの地に行けば……きっと彼女のことを思い出してしまう。  何よりも彼女の家族がいる。  後ろめたさを感じていた弘樹はどうにも気後れしてしまうが、そうも言っていられないため、ブレスト行きを決意した。  方針が決まったところで弘樹たちも城の食堂へ向かう。  兵士や家臣たちでにぎわう城の大食堂では、相も変わらず屈強な料理長らによって運営されていた。  昼食を受け取りにカウンターに臨むと、弘樹の顔を見た料理人が慌てふためいて奥に引っ込み、料理長が血相を変えて飛んできた。 「坊主! あ、いや、大英雄殿! 戻っていたのか!」 「大英雄だなんて呼ばないでください……お久しぶりです。また料理長の飯が食べたくなりましたよ。"並盛"でお願いします」 「よし! 山盛りだな! 任せておけ!」 「並盛って言ったのに……」  厨房へ引っこんでいく料理長の背中を見ながら呟いた弘樹は、適当な席を探そうと辺りを見回すと、多くの兵士たちが席を空けようと立ち上がっている。 「そんなに気を使わなくてもいいですよ」  頭を擦りながら弘樹は言うが、皆が口を揃えて是非自分の席にどうぞ、などと言うのだから弘樹は困ってしまう。 料理も出来あがってしまったので、仕方なしに一番若い兵士の席を譲り受けた。  煮込んだ鶏肉が器から溢れだしている……。 「悪いね」 「いえ! あの……差し出がましいお願いをしてもいいでしょうか?」 「なに?」  癖のある茶髪の少年兵は頬を桃色に染め、モジモジしながら言う。
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