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太陽が西の空に傾き、まるで炎のような夕焼けが大地を照らしている町の一角にある道場から、竹刀と竹刀がぶつかる音が響く。
道場では道着を着た少年が竹刀を振り上げて気合と共に振り下ろし、対する青年はフッと不敵に笑って竹刀の腹で少年の攻撃を受け流し、勢い余った少年はそのまま道場の床に転んだ。
「いたた……ああ、もう! これで十連敗だよぉ!」
「ははは、悔しいか?」
「悔しいよ! はぁ……僕も安藤先生みたいに強くなりたいな……」
「大丈夫。こうやって地道に鍛錬していれば強くなれるさ。さあ、もう帰る時間だ。竹刀はちゃんと片付けるんだぞ?」
「はい! ありがとうございました!」
元気よく一礼した少年は竹刀を片付けて道場から帰っていった。
それを見送り、縁側に出た青年……安藤弘樹は沈みゆく夕日をジッと見つめる。
――あれから二年か……早いものだ。あの世界から帰ってきたときも、あんな夕陽だったなぁ。みんなは元気にしているだろうか?
父であり稀代の魔術師であるアルビオン・ラインハルトが生み出した理想世界から戻って早二年という月日が流れ、安藤弘樹も二十歳の青年に成長していた。
目を閉じれば、向こうでの思い出が幾つも浮かんでくる。
こちらの世界に戻ったとき、やはり数ヶ月という時間が経過していた。
恐る恐る自宅に帰った弘樹を待っていたのは、いつもと変わらぬ母の姿で、今まで留守にしていたことを平伏して謝ると母は怒ることも無く言った。
父が創った世界はどうだったか? と。
夫婦ゆえなのか、母もまた父の素性を知っていたのだ。
そして弘樹が異世界に旅立ったことも、あちらで何が起きたのかも、全て知っていた。
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